サーフィンさえ出来れば何も要らなかった二十歳の頃、アルバイトで通っていたサーフィンワールドの編集部に、そのままの勢いで大学を中退して就職し、自分の望み通りにサーフィン漬けの日々を手に入れた。でも現実はそんなに甘くない。雑誌編集の過酷な現場、安月給から来る生活苦、そして独特すぎる業界に、いつの間にか擦り切れてしまい、あんなに好きだったサーフィンからも、そして海からもだんだんと距離を置くようになっていった。そんな時に出逢ったのが野田知佑というカヌーイストのエッセイだった。『北極海へ』、『のんびり行こうぜ』、『日本の川を旅する』、『ゆらゆらとユーコン』、『北の川から』など、片っ端から読み耽り、たった一人で荒野を彷徨い、愛犬と共にカヌーに乗って川を旅するそんな生活を熱望するようになっていった。急いでローンでフォールディング・カヤックを買い、ザックに寝袋とインスタントラーメンを詰め込んで青春18きっぷを握り締めて電車に乗って川へ向かった。そして東京を捨てて、外房の川沿いに居を構え、川を眺めながら生活するようにもなった。あの頃のそんな日々があったからこそ、いい距離感でいまだにサーフィンを続け、サーフィン雑誌を作り続けて来られたのだと思っている。店主にとって野田知佑は、まさに自分の生き方の手本となった人なのだ。
そんな野田知佑の傍で、一緒に旅し、一緒にサバイヴし、写真を撮り続けてきたのが佐藤秀明さんだ。野田知佑の著書や椎名誠の『あやしい探検隊』シリーズなどでも有名な写真家だが、実はサーフィン雑誌の世界においても、黎明期のサーフィン・ジャーナリズムを支えたレジェンド・フォトグラファーだ。
今回、枻出版社時代の同僚だった増本幸恵が自身のリトルギフトブックスから、佐藤秀明さんと共に編んだこの本を手にした瞬間、悶々とした日々を送っていた二十歳の頃の自分が鮮明に蘇ってしまった。椎名誠がこの本の中で書いているように、佐藤さんのその「なんともやるせない写真」の中に、野田知佑に熱狂する若かりし自分を感じ、なぜだか目頭が熱くなってしまった。
佐藤さん、マッサン、いい本をありがとう。